「は」付き要素=主題要素が文の前のほうに来る。ドイツ語でも主題要素が文の前のほうに来る。というかドイツ語はシンタクス(特定日本語で言う「語順」)が決まっている。定動詞、つまり人称・文法数・時制・モードの4つが定まった(述部)動詞を核として、
主題要素|定動詞|代名詞句|1格名詞句|3格名詞句|副詞大部分|4格名詞句|(述部)動詞に係る副詞|補部
というのが、「主文」の形の極めて極く大っっ体の図式。
詳しくは、
Hammer's German Grammar and Usage, 4Ed (Reference Grammars Series)
- 作者: Martin Durrell
- 出版社/メーカー: Routledge
- 発売日: 2002/07/25
の481頁から詳細綿密に解説している。この本がしている以上の解説をしている本は知らん。なお、
Hammer's German Grammar and Usage (Routledge Reference Grammars)
- 作者: Professor Martin Durrell
- 出版社/メーカー: Routledge
- 発売日: 2011/05/27
の463頁~も、同内容。
以下の記述も、このHammer's German Grammar and Usage内の諸記述を参考にしている。
これで、ドイツ語シンタクスの必須説明の1/2,5000ぐらいだが、言うてこれすら知らない人には十分だろう。
で、定動詞の左側の位置・前域(Vorfeld)に置いた要素には、「は」が付いているようなものである時がある(主題が定動詞の後方まで行くこともざらにあるが)。まず、ようなものでない時だが、文例と説明は
Der Duden in 12 Banden: 4 - Die Grammatik
- 作者: Renate Luscher
- 出版社/メーカー: Bibliographisches Institut & FA Brockhaus AG
- 発売日: 2016/08/01
の第1354~1355項(879~880頁)に依拠する。
- Zwei kräftige Männer haben die Kiste in den Hof getragen.
(力持ち2人おって櫃を庭に出したわ。)
だと、前域要素がただの1格主語。これが三上文法の「無題」。
(ところで、無題文を勝手に有題化するのが現在の「は」氾濫状況。特に英語系海外ニュースのド直訳タイトルで使ってる「は」など、ほぼすべて「が」の間違いである。
勝手に「は」にしてしまうのは、「~は」で書き出すようにという小中高教育で植え付ける「主語」信仰による所にも見えるが、根はもっと深いかもしれない。「が」だと指示性が強いから「は」に逃げたがるというのも有るだろう。例えばここにも書いたが「よろしかったでしょうか」を非難している世代のもっとヒドい日本語に比べたらこれはそんな間違いでなく、「よろしかったのでしょうか」なら正しくすらあるのだが、ところが後者に進めないのである。「火曜日までに」の「に」を落とすのも同じ根っこ。指示性が強いから避ける。コレナノダと指し示している勢いが如実だから、白黒付けようとし過ぎているから、ズバっと言い切ってるから、言い切り込み過ぎてるから、問いただしている感じ・詰問の感じがするから、話をハッキリさせようとしているから、「押しつけがましい」から、モメそうだから、火が付きそうだから、アブナそうだから、危険人物そうだから、「が」とガン!!!と来てくるから、「コワイ」から、穏やかでないから、平和でないから、…… そうであるから、直接性が感じられるもの・明確な表現・くっきりした輪郭・物怖じしない姿勢、総じて「言」おうとする意志が知覚されるような言葉遣い一切合切を、狂執的偏執的に避ける。)
次に、ようなものである時(有題文):
- Die zwei kräftigen Männer konnten die Kiste in den Hof tragen.
(力持ち2人だけど、櫃を庭に出せれたわ。)
(前域要素が主題要素)
上に述べたけど「は」役割は「は」以外も担当している。そして「は」にすると往々にして日本語として気持ちが悪い:「力持ち2人は、櫃を庭に出すことができた」ゲロきも!!!
- Die Kiste konnten nur zwei kräftige Männer in den Hof tragen.
(櫃なら、力持ち2人でやっと庭に出せたわ。)
- Die Kiste in den Hof tragen konnten nur zwei kräftige Männer.
(櫃を庭に出せたのって、力持ち2人がやっと。)
(本動詞も主題要素)
- In den Hof tragen konnten die Kiste nur zwei kräftige Männer.
(庭に櫃を出せたのって、力持ち2人がやっと。)
(定動詞の若干後方まで主題要素)
- Steine herunterfallen könnten hier jederzeit wieder.
(石がここでまた落ちて来るって事なんだけど、いつでもありうるねん。)
(定動詞のかなり後方まで主題要素)
[Ihnen] [für heute] [noch] [einen schönen Tag] wünscht Claudia Perez.
(今日もいい日でと言ってんのやけど、〇〇。)
(前域複数文肢という異例のケースでどこまでを主題要素と見るか)Satztypen Und Konstruktionen (Linguistik - Impulse & Tendenzen)
- 作者: Rita Finkbeiner,Jorg Meibauer
- 出版社/メーカー: De Gruyter
- 発売日: 2015/11/13
- の76頁より。
(このような前域を3文肢が埋めている異例の文として、他に、コンラート・F・マイヤー(Conrad Ferdinand Meyer, 1825–1898)の『聖者〔Der Heilige〕』の第3章に
[Am frühen Morgen,] [in der Knechtstracht, die mir ein guter Gesell geschenkt,] [weiterwandernd,] betrachtete ich nicht ohne Scham den Stand meiner Dinge.
という文が有る。)
これらが非SVO以だからといって別に「倒置」なのではない。名付けて何かが分かる訳でもない命名分類ムダ以外の何物でもない。例えば、仮に、
Drei Verwandlungen nenne ich euch des Geistes:
(Nietzsche, Also sprach Zarathustra, Von den drei Verwandlungen)
Nicht um eines Zieles willen leben wir der Erkenntniß, […]
(Nietzsche, 1880,7[122])
[…] also altruistische Genüsse müssen selten werden, oder die Form bekommen der Freude am Anderen, […]
(Nietzsche, 1881,11[40])
Friedrich Nietzsche: Sämtliche Werke (Golden Deer Classics)
- 出版社/メーカー: Oregan Publishing
- 発売日: 2017/04/25
といった2名詞句の分離(Aufspaltung)に於いて、「3変化」を「強調」するために「文頭」に置くという「倒置」をしているなどとぬかしたとして、それで何かが分かるのだろうか。「強調」は分かった。それで何が引っくり返っていないといかんのや?じゃあ「正置」なら文頭主語は強調決して無いんか?言えるんか?常に強調ある指示代名詞の1格主語しょっちゅう文頭に来とるぞ。そもそも前域を1格主語以外のものが占めている時には、印象では、①その占めている要素に特に何の強調も主題も無くて単に1格主語を後で出したいだけ>>②その占めている要素が「は」類付き>>>>③「強調」目的、と見受けられる。そしてドイツ語から日本語もまた見えてくると勉強になるのは②の観点以外はあるまい。