ということで前回見たHammer'sの該当ページ、
Hammer's German Grammar and Usage (Routledge Reference Grammars)
- 作者: Professor Martin Durrell
- 出版社/メーカー: Routledge
- 発売日: 2011/05/27
の146頁を見ると、次のようである:
- Das Problem ist allerdings schwierig というのがあったら、それは
I must admit that the problem is difficult と言っている。 - Er wurde allmählich rot im Gesicht は
He began to get red in the face である。 - Wir können Ihnen bedauerlicherweise nicht weiter behilflich sein は
We regret that we can be of no further assistance to you である。
いいだろうか。「allerdings」は「たしかに」「きっと」「もちろん」ではない。「allmählich」は「徐々に」「次第に」ではない。「bedauerlicherweise」は「残念ながら」「遺憾ですが」ではない。「残念ながら」はイヤミでしかない。ドイツ語の文中の不変化詞(Partikeln)は日本語の文中の不変化詞(?)に対応しているのではない。そんな逐語対応訓読は存在しない。ザルヲ得ナイ・出シタ・悔ヤンデオルということ、ドイツ語副詞は文末表現に対応しているのである。
それどころではない。文末表現対応もまた四角四面理解にすぎない。Hammer'sの該当ページをさらに見る。
- Hier können Sie beliebig lange bleiben は(「任意に」でなく)
You can stay here as long as you wish である。 - Thomas kommt bestimmt mit は(「きっと」でなく)
I’m sure Thomas is coming with us である。 - Es ist freilich nicht einfach は(「もちろん」でなく)
It must be admitted that it isn’t easy である。 - Sie kann leider nicht kommen は(「残念ながら」でなく!!)
I’m afraid she can’t come である。 - Sie erschien nicht は
She failed to appear である!!! - Die Firma stellt diese Ersatzteile nicht mehr her は
The company has ceased/stopped making these spareparts である。 - Er las weiter は(「さらに読んだ」でなく)
He continued to read/went on reading である。
いかに、ドイツ語が副詞に様々な文法の仕事をさせさせていたたたただいているかが、ここまで可視的に証示した今、お前らの目に焼き付いただろうか!!!!!!! それは、述部動詞と同等である。さらに主文を成す。
更にそれは、いわゆる「進行相〔Continuous and progressive aspects, Verlaufsform〕」表現をも担当する。
- Ich schreibe eben einen Brief an Anja
I’m writing a letter to Anja - Er rasiert sich gerade
He’s shaving - Ich fahre schon
I’m leaving - Sie kommt gleich
She’s coming
今後、こういった副詞に出会ったら、二度と「ちょうど」「もう」「すぐに」に脊髄反射で飛び付かないようにしてくれ。と言うかこんな物でもない。相(aspect)と言うなら、完了相(Perfektiver Aspekt)も作っている。「Sie ist bereits / schon da」
というのが有ると、念仏よろしく「すでに」「すでに」「すでに」繰り返してるヒマがあったら、これが動詞daseinの締結終了・完了の相を表示してて居ル行為の完-了性格を表出しているというその仕事、副詞の為した作業遂行のその有様を見ろ。「schon」が置いてあったら、それが係っている動詞の内容のこれ以上の展開顛末がもう存在しないということが表示してあるのである。ぉぉそうや「すでに」「もう」て考えてもいいよ。それでお前は ↑ ここまでのことが判るんか?ここまでの理解に至るんか?達意して眼目して出来てるんか?もう一度聞く。お前は、よくよく考えた(てる)のか?いずれにせよその他数々の動作アスペクトを副詞1粒1粒が表わしてしまう。ここまでの仕事をしているからこそドイツ語では副詞の挙動に付いていくことが命なのである。
役割はこれどころでもない。指示代名詞のことだが、今さら言うまでもないが代名詞は
- sie, sie, es, er < die, die, das, der < diese, diese, dies(es), dieser
という順の強度である。左端の人称代名詞が強調を置きにくいし中身が人間でないと文頭に置く強調が好ましくない(特に1格以外)。そうしたいなら指示代名詞がベター。また「es」が意地でも強調置けない(物理的に言えばアクセント置けない)という特殊な性格があり、強調時には「das」以外無理。という事が
Die Grammatik: Unentbehrlich fuer richtiges Deutsch
- 出版社/メーカー: Bibliograph. Instit. Gmbh
- 発売日: 2016/03/01
第364項(268~270頁)に書いてある(ただし強調置いてしまっている「es」の例を検討してはいる)。
ちなみにこの第9版の文法Dudenでは削除してしまった記述がこの:
Der Duden in 12 Banden: 4 - Die Grammatik
- 作者: Reinhar Peter Gallmann Peter Eisenberg
- 出版社/メーカー: Bibliographisches Institut & FA Brockhaus AG
- 発売日: 2006/01/01
第8版の同項の271頁にあって、「es」が意地でも強調置けないことが「eine heimliche Lücke im Pronominalsystem」だという記述である。面白い言い方だからずっと言っておけばいいものなのに、この記事にも見るように、文法Dudenはよくこういう謎削除をしてしまうのである。こういう「暗黙の不備」というのが(恐らく)どんな言語にも有って、それを収集網羅した資料が、まだ無いのなら、是非欲しいものである。この話はこの記事で続ける。
さて、指示代名詞というのはこうやって強意強調を自由に持てるからそうしたい時に適宜使う便利なものなのだが(そして使え)、特にもっと強意強調を込めているのがdies-シリーズ。「これ」「この」ではない。で、同じく「あの」ではない「jene, jene, jenes, jener」にも今は登場してもらう。で、そう考えてたらむしろいかんのだとは言えdies-代名詞に「近接指示」・jen-代名詞に「遠方指示」の役割があるには有る(であって文章中ではjen-は近くの何かを指示していて「この」になる。「あの例の」の意味の用法は滅多に無い)。この指示が、d-代名詞にも出来る。副詞をくっ付けるのである。377項(285頁)によると、
- Das hier gefällt mir besser als das dort. と
- Dieses gefällt mir besser als jenes. が
同じ意味である。さらに、指示代名詞としてでなく指示形容詞としてd-を使っているとハッキリさせる仕事も場所副詞には出来る。
- Der Baum da ist krank. Das Haus dort möchte ich kaufen.
だと、副詞が「そこの」「あそこの」とバカみたいに言ってんじゃなくて、d-による直示性を明確にしているのである。
- Genau das habe ich auch gesagt.
だと時間上の直示性。「ちょうど」ではなくて!!!「das」が時間的に前時点で言ったことそのものだと明確にしているのである(eben dasも勿論同様)。
キリがない。し、シリーズ第1回冒頭で懲らしめといた害悪本と同じ仕儀になる。こうやって書いて来ているのは、副詞の文法的仕事を収集全網羅する為にではない。そんな物はした所でまた何時か新しいのが見つかる … じゃなくて、でもあるけど、大事なのは、副詞があったら、そいつが何やっとんのかその都度その都度考えい、という事である。そしたら収集も網羅も各人各様のが出来る。