地上最強のブログ

しばいてくぞ

魔王が落とした日航ジャンボ (1)

 

大元にゲーテの「魔王〔Erlkönig〕」というバラードが有る。

と書いてすぐに注記が要って、まず「バラード」から言うと、その意味多種多様だが、ドイツ文学に限って言うと、内容が物語になっている18世紀以来の詩の1ジャンルの事である。この一覧だけに依る限りでは、最も多数書いたのがウーラント(Ludwig Uhland, 1787–1862)で、次にシラー、それからアネッテ・フォン・ドロステ=ヒュルスホフ(Annette von Droste-Hülshoff, 1797–1848)フォンターネ(Theodor Fontane, 1819–1898)マイヤー(Conrad Ferdinand Meyer, 1825–1898)がほぼ同数、あと、ゲーテシャミッソー(Adelbert von Chamisso, 1781–1838)、アイヒェンドルフ、リーリエンクローン(Detlev von Liliencron, 1844–1909)シュピッテラー(Carl Spitteler, 1845–1924)という順。「ローレライ」で有名なブレンターノ(Clemens Brentano, 1778–1842)が意外と少ない。なぜかハイネ「ローレライ」が載っていない点でもあんま信用できん一覧ではある。内有名所がドロステ=ヒュルスホフ・ゲーテ・シラーであろう。シラーの「担保」(1798/9)など特に有名

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だが、「手袋」(1797/8)などが非常にカッコいい。

ゲーテ「魔王」だが、その周辺事情、例えば「ハンノキの王」という語意の「Erlkönig」が何故「魔王」なのか云々云々その他その他ググれば山ほど情報出るしそれは重要でない。そんだけ有名すぎるってこと、それゆえも有って多数の改作という受容史があるという事が今は重要。「ハンノキの王」自体が、他言語詩作からのヘルダーの受容をさらに受容したものである。実際Herder, Erlkönigs Tochter見ると、「魔王」がオマージュしてる文言も見つかる(„spät und weit“, „war todt“)。ただこの周辺事情に関して1個言うとくと、元が「Die Fischerin」という「ジングシュピール」の冒頭詩なのだがこれの当時の出版物がなっかなか見つからん。ウェブ上で資料探すのが当たり前であり足使ってたらあかん時代なのだが、見つけるにはググり方に何工夫か要るものがある。で、ここに、それを掲載しているサイトを記しておく。よかったな!冒頭の「Dortchen」てのが「ハンノキの王」の元であり現在知られているテキストと異同ほぼ無し、ただ引用符無くてどれが誰の台詞でナレーションなのか分からん(ていうのは『悩めるヴィーアタ青年』でも同じだしそもそも19世紀以前のテキストたいがいそうなんだが)ようなっててこれに焦点当てる向きもある。

で、日本語のWikipediaが、些細でどうでもいい事をやたら取り立てて書くだとか、ただの他言語Wikiからのコピペ翻訳なだけだとか、記事担当者が書きたいだけのデッチ上げ虚偽を書く(別に「白暁燕」だけじゃない)だとか、欧米文学なら英米のものの紹介しかノウがない(日本での文学研究・紹介・知識の縮図だな)だとか、その他その他低品質・悪質・低級・無知蒙昧なのが通例である(のだが、日本の、学術や事件事故や伝統文化の記事などが非常にしっかりしていることもある)のに対して、やっぱ結局(有名)西洋言語のWikiが網羅性・情報量・典拠裏付け・外部リンク等の点で(特に学術系なら)ずっと利用価値があるもので、「魔王」ドイツ語Wikiのページを参考にすることになる。その中で、啓蒙主義へのアンチテーゼが含意に有って「無意識」描くものという話、「ハンノキ」でも魔的なのだという話、作中でエロスが露骨で主人公少年が性的虐待被害者で魔王が父の「悪い」面(DVの話題やな)表してるという話、小児性愛というより強姦が含意されてるという話、いや少年が思春期に入ることの寓話なのだという話、いやいや少年の熱病の譫妄が魔王云々なのだという話、を詳しくは見ない。し、こういった解釈だっていくらでも物申せる。例えば、啓蒙主義すなわち科学精神がこんな分析をしているのだし(全人類に告ぐが啓蒙主義は勘違いされている。それは始まってもないぐらいである)、腕で抱えれるほどの低年齢児が何で思春期手前やねんと言える。当時家庭円満だったゲーテが何故こんなものを書いたのか(円満だからこそとも言えるが)。誰もかれも少年に焦点当てるがこれ父の物語でもいいのでないか:①DVで死なせてしまった子供を抱えて夜中の騎乗+譫妄という状態の男性、②いやいや20世紀後半以降の世相の予言書なのであって父子家庭に奮闘する父ちゃんを描いたもの、等。

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他にも数々の解釈と研究が有る。バラードの特徴だが脚韻有りの詩節(Strophe)構成でバラードらしく1行4揚格(4 hebig)(この記事も参照)、という韻律構造も解釈に重要だというのもあって、独語(+英語等)による解釈と研究に当たらないかんし、当たれば豊饒な知見が得られる。でWikiの記述だが、他の疾風怒濤期バラードが恋愛モノなのに対して「魔王」が「自然の/という魔を主題にしたもの〔naturmagische Ballade[ ]〕」であり、18世紀文学で自然が美学絡みか宗教絡みなのに対して「魔王」では自然を「死に誘ってくるもの〔auf lockende, bezaubernde, beglückende und tötende Weise〕」として描いている、という記述など聞きたい。ヘルダーの民謡の受容ではあっても受容に際して明確な時代突破力を示している。受容(die Rezeption)というものをこの後に見て、最も突破力のある例を検討する。

次回の記事に続く