橋本文法が「定形中置」と呼んでいる
- 作者: 橋本文夫
- 出版社/メーカー: 三修社
- 発売日: 2002/03/15
現象だが、こういうもの(文例Max Stirner: Der Einzige und sein Eigentumから):
[…] die Wir Uns, […] auf spätere Blätter hätten versparen müssen, […]
[…] dass sie über das Judentum sich hätten erheben sollen, […]
[…] wie man sie im entscheidenden Augenblicke wird anreden müssen, […]
[…] der doch billigerweise nicht mehr wird erlauben sollen, […]
名称だが、定動詞を(不定形の反対としてか)「定形」と呼んで、次に、定-助動詞が副文(等)内で文末に行かずに不定動詞(第2分詞と不定詞を合わせてこう呼ぶ事にする)たちの左端(等)に移動するがこれが文の真ん中に来ているように見えなくもないからなのか「中置」と呼ぶ。それで「定形中置」。この現象に確定した名前が無いので、かような不細工な名称で行かざるを得ない。
イチから見てくと、
<1>副文末で不定詞2つ+定-助動詞となった時にこの定-助動詞が2不定詞の左端に移動する、というのが初歩。
<1.1>不定詞2つとは言っているが、 話法の モダリティの助動詞の第2分詞が「Ersatzinfinitiv」なだけで、本当に不定詞そのものが2つ並んでいるとは言い切れない。
<2>このケースが生じうるのは、<1>だけの限りでは、定-助動詞が、
a) 完了助動詞haben
b) モダリティ助動詞werden
c) モダリティ助動詞たちの内「話法の助動詞」と呼ばれている数点
である時でしか、可能性上ありえない。
<2.1>どれであっても左端移動は起きるのだが、
Der Duden in 12 Banden: 4 - Die Grammatik
- 出版社/メーカー: Bibliographisches Institut & FA Brockhaus AG
- 発売日: 2016/08/01
第684~687項(484~486頁、以下この本はここ参照)にこの現象の解説があって、その中で、a) 必ず移動する(ただし、Ersatzinfinitivが「lassen」及び知覚動詞のそれであるときには、移動しなくても可)、b) 移動してもしなくても可で、したらやや文語的、c) あんま移動しないし、したら文語的である、と整理している。
[…] daß seine Kinder sich gleichsam aus dem Stegreife etwas mußten versagen können.
(ゲーテ『ドイツ亡命者の談話』「フェルディナンドとオッティーリエの話」から)
<3>別に「不定詞」2つの時とは限らず、「定形」でないもの全部つまり不定動詞が複数並びさえずれば、起きる。だからa)~c)など、不足である。移動するのは、
d) 完了助動詞sein
もありうる。
<3.1>橋本557頁最下段で注記しているように、第2分詞+不定詞という不定動詞2つ並びの時にでも定-助動詞左端移動が起きる。
Selbst als Mann und Hausvater pflegte er sich manchmal etwas, das ihm Freude würde gemacht haben, […]
(ゲーテ『ドイツ亡命者の談話』「フェルディナンドとオッティーリエの話」から)
いやそれどころか、第2分詞+第2分詞の時にでも起きる:
[…] wenn die Übeltat nicht zufällig wäre entdeckt worden.
(ゲーテ『ドイツ亡命者の談話』「フェルディナンドとオッティーリエの話」から)
[…] daß dasselbe Prinzip theoretisch in Deutschland durch die Kantische Philosophie ist aufgestellt worden.
(ヘーゲル『歴史哲学講義』「第四部ゲルマン世界」「第三篇近代」「第三章啓蒙思想とフランス革命」から)
<4>定-助動詞が移動するのは、不定動詞「2」つ並んだ時に限るとは言ってない。3つの時も有る。
[…] weil doch daraus vielleicht einiges zur Aufklärung der Geschichte hätte genommen werden können.
(ゲーテ『ドイツ亡命者の談話』「女流歌手アントネリ」から)[…] weil sie Latonen mit ihren Zwillingen nicht aus ihrem Teiche hätten trinken lassen wollen, […]
(ヴィーラント(Christoph Martin Wieland, 1733–1813)の『アブデラ人物語』第2部第5書第2章(ここでも紹介してる))
(以下2例は上で引用していた『唯一者とその所有』から)
[…] und was man »in seines Nichts durchbohrendem Gefühle« wird - stehen lassen müssen.
[…] dass die Beamten nur durch den Richter ihres Amtes sollen entsetzt werden können, […]
何が起きているのかというと、まず定動詞第2位の普通の文だと
- hätte […] genommen werden können
- hätten […] trinken lassen wollen
- wird […] stehen lassen müssen
- sollen […] entsetzt werden können
だが、これら定-助動詞がまず文末に移動して
- * genommen werden können hätte
- * trinken lassen wollen hätten
- stehen lassen müssen wird
- entsetzt werden können sollen
となり(1.・2.は上記<2.1>により不可)、そこから動詞群の左端に移動して
- hätte genommen werden können
- hätten trinken lassen wollen
- wird stehen lassen müssen
- sollen entsetzt werden können
となっているのである。ところでこういった不定動詞が3つ有るケースでは、その3つの内の定-助動詞が直支配している不定動詞が次のような位置を取る事もありうる:
- hätte können genommen werden
- hätten wollen trinken lassen
- wird müssen stehen lassen
- sollen können entsetzt werden
で、このように、定-助動詞より左には行かない。これは、橋本558頁・Duden485頁で解説している。
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