地上最強のブログ

しばいてくぞ

ニーチェは科学批判をしてくれる人ではないからな

 

前回の記事から

ういった宝庫なのであるニーチェ断片群は。別にもちろん有名作品でも同じことで、それにこれらも断片群なのであるが、こういった散文断片にこの人の面白味がある。一方、例えば日本と縁もゆかりもない古代の・ギリシャの・「悲劇」の論考を読んで何がおもしろいのだろうか。日本と縁もゆかりもない当時の政治事情論を読んで何が楽しいのだろうか。この人とワーグナーの関係に関する諸々の一体何が面白いのだろうか。

わかったらそこのお前、相も変わらず『ツァラトゥストラ』に飛びつくお前、それはニーチェの本の中で(特に日本人が)一番読まなくていい駄作だぞ。お前は、バカの1つ覚えでその意味不明本にかじりついて、何か1つでも分かったことがあるのか?分かった気になっただけなのか?どっちかはっきししろ。

そして何度も言うが、聞き飽きただろうが、ニーチェの面白いところは心理科学や人間行動学である。上で言った手前有名作品に目を向けて見よう。『人間的、あまりに人間的』をテキトーに開くと、第1巻第1部10番という頭から、次のような文章がある:

一生の間に何人と出逢えるのだろう

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Traum und Cultur. — Die Gehirnfunction, welche durch den Schlaf am meisten beeinträchtigt wird, ist das Gedächtniss: nicht dass es ganz pausirte, — aber es ist auf einen Zustand der Unvollkommenheit zurückgebracht, wie es in Urzeiten der Menschheit bei Jedermann am Tage und im Wachen gewesen sein mag. Willkürlich und verworren, wie es ist, verwechselt es fortwährend die Dinge auf Grund der flüchtigsten Aehnlichkeiten: aber mit der selben Willkür und Verworrenheit dichteten die Völker ihre Mythologien, und noch jetzt pflegen Reisende zu beobachten, wie sehr der Wilde zur Vergesslichkeit neigt, wie sein Geist nach kurzer Anspannung des Gedächtnisses hin und her zu taumeln beginnt und er, aus blosser Erschlaffung, Lügen und Unsinn hervorbringt. Aber wir Alle gleichen im Traume diesem Wilden; das schlechte Wiedererkennen und irrthümliche Gleichsetzen ist der Grund des schlechten Schliessens, dessen wir uns im Traume schuldig machen: so dass wir, bei deutlicher Vergegenwärtigung eines Traumes, vor uns erschrecken, weil wir so viel Narrheit in uns bergen. — Die vollkommene Deutlichkeit aller Traum-Vorstellungen, welche den unbedingten Glauben an ihre Realität zur Voraussetzung hat, erinnert uns wieder an Zustände früherer Menschheit, in der die Hallucination ausserordentlich häufig war und mitunter ganze Gemeinden, ganze Völker gleichzeitig ergriff. Also: im Schlaf und Traum machen wir das Pensum früheren Menschenthums noch einmal durch.

(Nietzsche, Menschliches, Allzumenschliches I, I/12)

 

(脳活動が低下する睡眠中に夢を見るのだが、これはどういうことだろうか。脳の仕事とはもっぱら記憶であるのだが、記憶作業というのは睡眠中停止するわけではなくて低レベルに落ちる。実は人類は太古の数百万年間覚醒時でもこのような記憶レベルだった。というか記憶というのはこういうものである。知覚対象を捉えるにはどうしようもなくデタラメで不正確であり、対象たちの間の似ている(ような気がする)部分ばかりをテキトーに拾い集めてくるということをしよる。だから、覚醒時でこんな脳レベルだった古代人などどんなものか、その作った神話のデタラメで恣意的な様を見れば想像つくものである。いや現在でも、欧州外の地域の未開人のひとたちなど、ものすごい物忘れであり、記憶課題ですぐ疲弊してしまう上に頭がまともに働いていない言動をし出すようになる。そして夢見の間の文明人もこれと同じ状態である。夢では記憶再認が不正確であり判別能力が落ちており全般に思考力が低下している。後に夢を想起復元するとそのぶっ飛んだ内容に驚嘆するものである、こんなことを自分はしたがっていたのか考えていたのかと。それでもとにかく、夢の内容は、思い出せる範囲内では、明瞭極まりないものである。明瞭すぎて、現実にあったことだと思えてしまうぐらいである。そして繰り返すが元々人類は覚醒時にもこんなものだった。今とは比べ物にならない頻度で白日夢を見ていた、1人がではなくて何なら村全体国全体が。そういった時代の意識状態に現代人は夢の中でタイムスリップするのである。)

汚れている真実(チーム8選抜)

汚れている真実

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現代からすれば事実誤認も誤情報も見られる真似科学かもしれないが、それでも、実に示唆深く色んなことを考えさせる文章である。少なくとも、意味不明な予言書(風の聖典パロディー)やゴテゴテしい文化論という別のニーチェに酩酊してこれがニーチェ思想かと思い込むアホ読書よりは、ずっと得るものが有るだろう。ニーチェの記憶論考は有名であり本シリーズのこの記事でも一端を見たが、ようするに記憶というのは到底上等なものではなく非写実的で解釈的で恣意的というのが肝である。夢見の間レベルが低下するがそのレベルが元々であって文化の大半がこのレベルに作られたものだと言っている。そして固有名は挙げていないがおそらく当時の先進国であろう地域のおそらく都市人口に関しては夢の間だけそうなると言っており、つまり覚醒時なら記憶能力レベルが一段高いと言っていることになる。(或いはそう思ってはいないかも知れない。先進国民の覚醒レベルも大したことがないと思っているのかも知れない。)

当時の精神科学の知見を口まねしているだけだろうか、人類の記憶力と歴史文化をリンクさせる画期的な内容だろうか。いずれにせよ、こういう論考をも大量に残している人である。それらの中にはトンデモ科学も少なからずあるだろう。そうすると、科学の内容に精通し科学の射程と限界を見定めてその身分に審判を下していた科学裁定者であるというよりは、科学の知見の中でたいがい愉しく遊んでいる科学趣味の人ということにもまたなる。

トンデモ科学と言えば1882年7~8月の断片群に次の文章が有る:

Zur Erklärung der sogenannten „spiritistischen Erscheinungen“. Ein Theil der intellektuellen Funktionen des Mediums verlaufen ihm unbewußt: sein Zustand ist darin hypnotisch (Trennung eines wachen und schlafenden Intellekts) Auf diesen unbewußten Theil concentrirt sich die Nervenkraft. — Es muß zwischen den durch die Hände verbundenen Personen eine elektrische Leitung nach dem Medium zu stattfinden, vermöge dessen Gedanken einer jeden Person in das Medium übergehen. Eine solche Leitung von Gedanken ist nicht wunderbarer als die Leitung vom Gehirne zum Fuße, im Fall eines Stolperns, innerhalb Eines Menschen. Die Fragen werden durch die Intellektualität der betheiligten Personen beantwortet: wobei das Gedächtniß oft etwas leistet und bietet, was für gewöhnlich vergessen scheint. Folge der nervösen Emotion. — Es giebt kein Vergessen. — Auch unbewußter Betrug ist möglich: ich meine, ein betrügerisches Medium fungirt mit allerlei betrügerischen Manipulationen, ohne darum zu wissen: seine Art Moralität äußert sich instinktiv in diesen Handlungen. — Zuletzt geht es immer so zu, bei allen unseren Handlungen. Das Wesentliche verläuft uns unbewußt, und der Schelm ist sich unbewußt hundertmal mehr und häufiger Schelm als bewußt.

Elektricitäts-Erscheinungen, kalte Ströme, Funken sind möglich dabei. Gefühle Angefaßt-werden können die Sache der Täuschung sein, Hallucinationen der Sinne: wobei möglich ist, daß es für mehrere Personen Hallucinat<ions>-Einheit giebt. (Wie bei den alten orgiastischen Culten)

Der Glaube an die Wiederbegegnung mit Todten ist die Voraussetzung des Spiritismus. Es ist eine Art Freigeisterei. Wirkliche Fromme haben diesen Glauben nicht nöthig. (Buckle über Unsterblichkeit)

(Nietzsche, 1882,1[31])

 

(霊現象というのがあるが、これは霊能者が意識せず作為してしまっていることで起きるものである。こやつは降霊の間催眠状態というものになっているのだが、つまり神経が無意識過程に縛られているわけである。さて参加者のほうは皆手をつないでいるわけだが、そこに微電導(脳から効果器に伝わるあれと同じもの)が発生してしまうことは否めない。この微電導が、参加者の考えていることを霊能者に伝えてしまう。さて霊能者が何か質問をすると勿論参加者の意識が答えるが、それに感情神経が刺激されて、意識下で、何らかの忘れられている記憶(記憶が消えることはない)が作用してしまう。こうして、その気がなくても作為や操作が入り込んでしまうのである。まして元からインチキでやってる霊能者ならなおさらその無意識過程に作為が入り込みやすい。今交霊場面を例にして述べているがコトは一事が万事であって人生を左右するものはすべからく無意識下でごにょごにょするのであり、鍵を握るのは無意識であり、この無意識下過程を加算すると特定のパーソナリティの度合いが見かけ上の何百倍も有ることになる。日常の事象がこういうものであろう。それは、見えない電気が伝える事たちなのだろう。見えない電流と発熱が暗躍しているのである。触覚内容なども作用するだろう。感覚とはカンタンに眩まされるものだ。そういうものが複数人の間で一度に作用することだってある。古代の祭祀などで起きていたことはそういうことだろう。交霊では故人を呼ぶものだが、つまり人が死ぬということを認めている。信仰の世界では人は不死なので降霊は必要ない。)

活動電位による神経情報伝達が手をつないだ人と人の間にも起きるという、これは何とも、今批判している降霊術に勝るとも劣らないオカルト(当時の説だったのかニーチェの自説なのかは全く知らん)にも見えるが、言っているほうはオカルトのつもりはないのだから、トンデモだと非難するのは的外れである。今の最新科学を22世紀から揶揄される気持ちを考えてみろ。

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なお、悪人は無意識下ではもっと悪人だと書いているが、これは「無意識」というものの普通の話としては逆で、悪人なら良人を・良人なら悪人を無意識下に抱えているというのがよくする話だ。無意識はパーソナリティの貯水池ではないはずだ。こういったことは当時よくよく知られていたはずであり、当時の無意識理論に敢えて反対のことを言っているのだろうか、そういったことではないのであろうか。

とにかく、科学やオカルトに超然とした姿勢ではない。流行しているオカルトを神経科学で捌いているかと思えば、最後の段落で「霊」現象に伝統的信仰をぶつけてみたりと、オカルトやインチキにがっぷり付き合っている科学の趣味人の姿がある。

別に、こういうニーチェでいいのではないのだろうか。大宇宙の真理を宣託してもらいたいなら、人類社会や宗教に啖呵を切ってもらいたいなら、爛熟文化やデカダンスの香りを伝えても

次回の記事に続く