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しばいてくぞ

恒吉良隆『ニーチェの妹エリーザベト―その実像』(3)

 

前回の記事から

Die Schwester: Das Leben der Elisabeth Foerster-Nietzsche

Die Schwester: Das Leben der Elisabeth Foerster-Nietzsche

  • 作者: Kerstin Decker
  • 出版社/メーカー: Piper Verlag GmbH
  • 発売日: 2018/09/04

 

さらに注目すべき記述が例えば164頁以下であるが、それは引用しないから本書に直接当たれ。こういったニーチェに関する有形・無形の資料の収集と保管も、エリザベトの行動力(に恐らく加えて、他の入植者が参っている中でパラグアイの気候風土に負かされてなかったという様な屈強な体力)が大きな一助となっているということが本書から上手く伝わってくる:

エリーザベトは、これに続く〔兄の伝記〕第二巻を執筆するために、兄フリードリヒのかつての知人・友人たちに面会して、話を聞き出す必要があった。〔中略〕エリーザベトは兄の足跡を辿るかのように、約一か月半にわたって取材旅行に赴いた。ジルス・マリーアでメータ・フォン・ザーリス〔Meta von Salis, 1855–1929〕に会い、イタリアのストレーザではマルヴィーダ・フォン・マイゼンブーク〔Malwida von Meysenbug, 1816–1903〕を訪ね、スイスのバーゼルに足を運んでJ・ブルクハルト〔Jacob Burckhardt, 1818–1897〕に面会を求めた。またライプツィヒにおいてF・オーヴァベック〔Franz Overbeck, 1837–1905〕と会い、兄が狂気の闇に陥る前後の状況を聞き取ろうとした。(恒吉良隆ニーチェの妹エリーザベト―その実像』同学社(2009)178頁)

こういった行動力など この人が20台の時からのものであると言う:

母親フランツィスカは、駅馬車による真冬のアルプス越えは危険であるし、そもそも付き添い婦人も伴わずに若い娘が遠路はるばる旅をすることは、常識はずれのことだと諭した。しかし、エリーザベトはそのような母親の反対を押し切って、ひとり兄の元へと急いだ。〔中略〕結局、四月初め妹は兄の元に馳せ参じ、その後ほぼ半年の間バーゼルに長期滞在した。そして「心から敬愛するフリッツ」(Herzensfritz)のために、せっせと家政婦役、秘書役、介護駅をこなし、あるいはカウンセラー役まで務めた。家計簿の管理、炊事、洗濯、病気の看護、散歩の相手はいうまでもなく、さまざまな雑用を喜んで引き受けた。(前掲書53~54頁)

そしてこの人の自律的主体性が少女時代のものからのものであったことも伝える:

リースヒェン〔エリザベト〕はいまだわずか一五歳であったが、このような時代通念〔「ひたすら献身的な愛に生きる女性の生涯」(前掲書29頁)〕に少なからぬ疑問を感じ、おそらく独自の考えに基づいて、その曲が兄からプレゼントされることを拒否したのであろう。〔中略〕長じてのちエリーザベトは、この曲に謳いあげられているような「女の愛と生涯」には目もくれず、果敢に自らの歩む道を模索した。(前掲書30頁)

こういった気質が終生ブレなかった。

普仏戦争時に〕エリーザベトは、あるとき兄フリッツから「リースベト、もしおまえが男であったなら、どんな行動に出るだろうか?」と聞かれて、「もし私が男だったら、もちろん一緒に戦争へ行くわ」と、事もなげに答えたといわれる。(前掲書52頁)

というほどのものであった。本書はこういったエリザベトのたくましさを伝えてやまない。次のような記述:

エリーザベトは、前述のように「新ゲルマ―ニア」の再取得を念じて各地を飛び回る活動をしながらも、かたわら兄の著作をめぐってあれこれと強引な関与に乗り出した。〔中略〕また、今まで企画されたことのなかった初めての〔「初めての」に原文傍点〕『ニーチェ著作集』刊行の契約を、ナウマン社と結んだ。〔中略〕その際エリーザベトは商才たくましく、その著作集の「普及版」の刊行についても申し入れた。これは「標準版」を買い求める経済的余裕のない若いニーチェ傾倒者たちを考えたうえでの計らいであると同時に、売らんかなのしたたかな販売戦略でもあった。(前掲書155~156頁)

など そのごく一部にすぎない。マッキンタイアーも言及し感嘆すらしているエリザベトの商才もまたイデオロギー人間からは非難の対象としかならないが、恒吉も随所でごうごうの非難を寄せているエリザベトの数々の虚言と偽造は、素直にふつうに見れば、ニーチェが賛辞しか贈っていないマキャベリズムの実践に他ならないだろう。ところで嘘には数種類ある。「嘘を吐く」などという汚い息を吐いている連中には考えることもできないしかしこの世の現実として。実践理性が禁じる嘘が弱さの嘘である一方、自分の上なる真実様・上様に服従することしかできない弱者の「正直」は弱いヘタレ正直であり、このように論じるシュティルナーが言う「虚言という英雄的勇気」に於いては、強さから虚言が出る(典拠:

Der Einzige und sein Eigentum

Der Einzige und sein Eigentum

  • 作者: Max Stirner
  • 出版社/メーカー: Reclam Philipp Jun.
  • 発売日: 1972/01/01

の332~338頁)。嫉妬しか能が無いまさしく末人である人類(が高等類型に嫉妬の罵詈雑言を浴びせ・コメ欄に書き込むこと古今東西普遍の現象)の大多数には理解も想像も出来ない人々が有って、19世紀のドイツの田舎のいち牧師家の娘がこれであっていたのである。

次回の記事に続く

 

嫉妬の権利

嫉妬の権利

  • 乃木坂46
  • 発売日: 2016/03/23
  • メディア: MP3 ダウンロード